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第267話 

著者: 夜月 アヤメ
last update 最終更新日: 2024-10-31 13:47:35
離婚しても同じ部屋で寝ることに、彼は全く抵抗を感じていなかった。

「いいえ、あなたがベッドで寝て、私はソファで大丈夫」お前は冷静に手を引き抜き、「先にシャワーを浴びてくるから、休んでいて」と言った。

言い終わると、彼女は返事を待たずに部屋を出ていった。

藤沢修は虚ろな手を見つめ、ため息をつきながら彼女の背中をじっと見つめた。

彼女が部屋を出て行ったあと、胸を押さえて、そこに痛みを感じていた。

......

松本若子がこの部屋を出て行ったとき、全ての荷物を持っていったわけではなかった。彼女のものはまだたくさん残っており、泊まるには都合がよかった。

彼女が隣の部屋でシャワーを浴び、着替えて戻ってくると、ソファには既に布団が整えてあった。

若子は振り返って不思議そうに尋ねた。「これは執事がやってくれたの?」

「そうだ」修はベッドにうつ伏せて、彼女を見つめながら小さくうなずいた。

実は、自分で彼女のために整えたのだ。執事ではない。

だが、こんな些細なことを伝えたところで、今の二人の関係に変化があるわけでもない。

若子は「そう」と一言だけ言って、特に疑うこともなく深く追及しなかった。

彼女はソファに腰を下ろし、髪をほどくと、長く黒い髪が花のような清らかな香りを漂わせた。

彼女はソファに横たわり、「もう寝る?じゃあ、電気を消すわね」と言った。

修は「うん、お前が消して」と答えた。

若子が手を軽く叩くと、感応ライトが暗くなり、部屋は真っ暗になった。

修は最初うつ伏せていたが、電気が消えると身体を少し動かし、若子の方に顔を向けるように横向きになった。

若子はその音に気付き、少し眉を寄せて言った。「動いたの?」

「ちょっと横向きになってるんだ。この方が背中の傷に当たらなくて楽だから」と、彼は素直に答えた。

「そう。横向きで楽ならそれでいいけど、絶対に仰向けにはならないようにね」

「わかった」修の口元には、

松本若子には見えない優しくて深い笑みが浮かんでいた。

若子は急にソファから起き上がり、スリッパを履いて少し歩くと、小さなナイトライトを取り出してソファのそばのテーブルに置き、ライトを点けた。

部屋はほんのりとした光に包まれ、眠りの邪魔にならない柔らかな明かりだった。これで、彼女はベッドに横たわる彼の様子を見ることができた。

「どうし
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    修はスーツの上着を乱暴に脱ぎ捨て、床に放り投げた。そして若子に覆いかぶさるようにのしかかり、彼女の両腕を押さえつけて動けなくした。「修!私、西也と......」「あいつの名前を口にするな!」修は荒々しく彼女の口を手でふさぎ、叫ぶように言った。「絶対に言わせない!」手を放すと、再び唇で彼女の言葉を遮った。彼は、若子の口から西也の名前が出るのが耐えられなかった。彼を狂わせる。嫉妬で胸が張り裂けそうになる。何より、彼が見てしまった光景―若子が西也と一緒にいるときの、あの自然で心地よさそうな雰囲気。それは、修と一緒にいるときには決して見せたことがない姿だった。もっと腹立たしいのは、若子が西也のためにしていたことを、自分のためだと勘違いしていたことだ。どうしてだ?どうして彼が若子と10年も共に過ごしてきた時間が、西也に勝てないというのか?彼には納得できなかった。若子は、彼とかつて世界で一番近い存在だった。共に幸せな時を過ごし、夫婦として繋がっていた。彼女と最も親密であるべきなのは、他の誰でもない、この自分だ。強引な修の行動に、若子は何も抵抗することができなかった。彼の感情の激しさと、勢いのある行動に圧倒され、頭の中が真っ白になっていた。彼の激しいキスと、溢れ出る感情は、すべて彼女の想定外だった。まさかこんな状況になるとは、彼女には全く思いもよらなかった。修が、自分を愛しているなんて。修が、自分のためにここまで狂えるなんて。10年。若子はずっとこの男を深く愛していた。自分が「藤沢家の養い子」だと思ったことは一度もないし、彼との結婚が恩返しだと考えたこともなかった。10年という時の中で、この愛情は根を張り、芽を出し、彼女の心の奥深くに根付いていた。彼を愛していた。深く、狂おしいほどに。だからこそ、彼に傷つけられたとき、彼女の痛みは骨の髄まで響いたのだ。若子は、自分の体がまるで自分の意志を失ったかのように感じていた。感情に完全に支配され、両手が自然と修の身体を抱きしめていた。細やかで熱いキスが、次々と彼女の身体に降り注いだ。次第に、彼女の中に残っていた最後の理性さえも、一つずつ飲み込まれていくようだった。まるで深い海の中で浮かんでは沈むような感覚だった。「......これは何だ?」燃え上がる

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    若子は、これほどまでに狂気じみた修の姿を見たことがなかった。本当に、理性を失い、正気ではないように見えた。だが、彼の瞳に映る感情だけは、あまりにも真実味があった。「分からない。私には本当に分からない。どうしてこうなるの?あなたは私が愛していないと思っているけど、じゃあ聞くけど、あなたは10年間、私を愛していたの?たった一瞬でも......」「愛してる!」その言葉を、修はほとんど叫ぶように吐き出した。熱い涙が彼の瞳から溢れ出し、頬を伝って落ちていく。彼は若子を力強く抱きしめ、その体をまるで自分の中に埋め込むかのように押し付けた。「どうして愛していないなんてことがあるんだ?俺はお前をずっと愛してる。お前を妹だなんて思ったことは一度もない。あれは嘘だ。本心じゃないんだ。お前は俺の妻だ。どうして妻を愛さないなんてことがある?」修は目を閉じ、彼女の温もりを感じ、彼女の髪の香りを嗅いだ。その香りに、どれほど恋い焦がれていたことか。離婚してから、彼女をこうして抱きしめることも、近くに寄ることもなくなってしまった。ずっとこうして抱きしめていたい。永遠に、この瞬間が続けばいいのに。彼は本当に彼女が恋しかった。狂おしいほどに、会いたかった。だから、もう我慢できなかった。こうして彼女を探しに来たのだ。若子の涙は、堰を切ったように溢れ出した。ついに抑えきれなくなり、激しく泣き崩れた。彼女は拳を握りしめ、力いっぱい修の肩や背中を叩き続けた。「修!あんたなんて最低よ!本当に最低の男!」彼女が10年間愛し続けた男。彼女を深く傷つけたその男が、今になって愛していると言う。そして、離婚は彼女のためだったなどと言い出す。なんて滑稽なんだろう。「俺は最低だ。そうだ、俺は最低だ!」修は目を閉じたまま、苦しそうに声を震わせた。「俺はただの最低な男で、それにバカだ。お前を手放すなんて。若子......俺のところに戻ってきてくれないか?頼むから、俺のそばに戻ってきてくれ!」「いや、いやだ!」若子は泣きながら叫んだ。「あんたなんて大嫌い!どうしてこんなことができるの?私がどれだけ時間をかけて、あなたに傷つけられた痛みを乗り越えようとしたと思ってるの?それなのに、今さら突然愛してるだなんて言い出すなんて、本当に馬鹿げてる!私はあなたが嫌い、大嫌い!」「

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第438話

    若子は鼻で冷たく笑った。「それなら、どうして私のところに来たの?そんなことして誰が幸せになるの?彼女が目を閉じるとき、後悔のない人生だったなんて思えるとでも?」彼たちの間には、常に雅子の影が立ちはだかっていた。修の瞳には深い痛みが宿り、じっと若子を見つめていた。長い沈黙の後、その目には複雑で濃い感情が溢れ出していた。「お前が選べと言ったんだろ?」修は彼女の顔を強く掴みながら言った。「今ここで選ぶよ。俺はお前を選ぶ。雅子のことは気にするな。後のことは全部俺が背負う!俺のせいで起きたことなんだから」若子は目を閉じ、悲しみに満ちた声で答えた。「修、もう遅いの。今さら選んでも、もう遅いのよ!」込み上げてくる悲しみが彼女を覆い、堪えきれず泣き崩れた。「泣かないでくれ」彼女の涙を見た修は、ひどく動揺し、慌ててその涙を拭おうとした。だが、涙は次から次へと溢れ出て、拭いても拭いても止まらなかった。「どうして遅いって言うんだ?あの日俺が言った言葉のことをまだ怒ってるのか?あれは本心じゃない。雅子が死にそうだったから、他に選択肢がなかったんだ。だから俺はクズのフリをして、お前に恨まれた方が、俺のために涙を流されるよりずっとマシだと思ったんだ」「じゃあ、今は選択肢があるの?」若子は涙声で問い詰めた。「どうしてあの時は選べなかったのに、今になって私を選ぶと言うの?それなら私がもう悲しまないとでも思ってるの?修、あなたは変わりすぎる!今日私を選んだとしても、明日また桜井雅子を選ぶんじゃないの?それとも、山田雅子でも佐藤雅子でもいいわけ?」彼の言葉があまりにも信用できなくて、彼女は恐怖すら感じていた。「そんなことはしない!」修は力強く言った。「お前が俺と復縁してくれるなら、絶対にそんなことはしない。お前が少しでも俺を愛してるって感じさせてくれるなら、俺は変わらないって誓う!」「修、あなたは本当におかしい!完全に狂ってる!」若子は彼の言葉に圧倒され、声を失いかけながら叫んだ。「あなたは本当にどうかしてる!」「そうだ、俺は狂ってるんだ!」修は今にも壊れそうな目をしていた。「俺は雅子と結婚して、彼女の最後の願いを叶えようと思っていた。でも、今日、お前を見てしまったんだ。遠藤と一緒にリングを選んでいるところを見てしまった!あいつと結婚するつもりか?俺

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第437話

    若子は修の言葉に完全に圧倒された。彼女の目は大きく見開かれ、驚きの表情を浮かべたまま、まるで時間が止まったかのように固まってしまった。しかし、その呆然とした瞬間は一瞬だけだった。すぐにそれは消え去り、代わりに強烈な皮肉が心に湧き上がってきた。「修、それじゃつまり、こういうこと?この全部があなたと桜井さんの関係とは全く無関係で、ただ私があなたを愛していなかったから、あなたは寛大な心を持って私を解放し、私を幸せにしようとしたってこと?」そう言いながらも、若子はその考えがどれほど滑稽であるかに自分でも呆れた。だが、修の言葉から察するに、彼の言い分はまさにそういうことのようだった。修は突然彼女にさらに近づき、かすれた声で問いかけた。その声には沈んだ悲しみが滲んでいた。 「もしそうだと言ったら、お前は俺に教えてくれるか?お前が俺を愛したことがあるか、ないかを」「修、結局またこの話に戻るのね。あなたが私を愛したかどうかを問うけど、それが分かったところで何になるの?もし私が愛していなかったと言えば、あなたはすべてを私のせいにできるわけ?もし愛していたと言ったら、あなたは桜井さんとの関係を断ち切るって言うの?」「断ち切る!」修の声は強く響き渡り、その決意には一片の迷いもなかった。若子の世界はその瞬間、音もなく静止した。まるで周囲すべてが止まったように感じた。目の前の修さえも、彼女の視界では動きを失っていた。彼が言った「断ち切る」という言葉が、彼女の心の奥深くに黒い渦を巻き起こし、全てを吸い込んでいった。その渦は暗闇の中で果てしなく広がり、無音の恐怖と衝撃だけを残していた。現実感を失う一瞬、若子はこれが夢であると思い込もうとした。だが、不安定に鼓動する心臓、乱れた呼吸、そして目の前にいる修の燃えるような視線。それらすべてが、彼女にこれが現実であることを告げていた。 修の目は、まるで燃え盛る炎を宿したかのようだった。それは彼女を燃やし尽くそうとするような強さで、彼女に近づいていた。その目はとても激しく、それでいて熱かった。若子の唇が微かに震えた。喉はまるで泥水で満たされたかのように重く、やっとの思いでいくつかの言葉を絞り出した。 「何を言ってるの......?」修は右手を肩から離し、そっと若子の顎を掴むと、顔を上げさせた。深い瞳で

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第436話

    修は冷たい表情のまま、若子の許可を待たずに部屋に踏み込み、バタンと扉を閉めた。「何してるの?」若子は眉をひそめた。「まだ中に入るなんて言ってないでしょ」「でも入った」修は投げやりな態度で答え、まるで道理を無視するかのようだった。若子はなんとか怒りを抑えようとしながら、「それで、何の用なの?」と尋ねた。「お前、俺のことをクズだって何人に言いふらしたんだ?」若子は眉をひそめ、「何の話か分からないけど」と答えた。彼女には身に覚えがなかった。「本当に知らない? じゃあ、なんで遠藤の妹が俺をクズ呼ばわりするんだ?お前が吹き込んだんだろ?」若子は呆れて、「そんなこと知るわけないでしょ。とにかく、私じゃない。それより、出て行って。あなたなんか見たくないわ」と突き放した。修はその言葉にさらに苛立ちを覚えた。若子が自分を追い出そうとするのを見て、彼はここに来た理由が、ただ若子に会う口実を探していただけだと心の奥では気づいていた。それでも、彼女を責めずにはいられなかった。「そんなに急いで俺を追い出したいのか。遠藤に知られるのが怖いのか?お前ら、どこまで進展してるんだ?ジュエリーショップなんて行って、随分楽しそうだったな」その言葉に、若子の眉はさらに深く寄せられた。「それがあなたに何の関係があるの?私たちはもう離婚したのよ。どうして家まで来て詰問するの?」彼の態度に、彼女は心の底から嫌気がさしていた。「離婚したらお互い干渉するべきじゃないってことか?」「その通り。だから前にも言ったでしょ。あなたはあなたの道を行けばいいし、私は私の道を行くの」修は冷たい笑いを浮かべ、「お前が俺と関係を断ちたいって言うなら、どうして俺を助けるんだ?」「助ける?何の話?」若子は困惑した表情で尋ねた。「お前、瑞震の資料を夜通し調べてただろ?俺には全部分かってるんだ。関係を切りたいんだったら、なんでそんなことをする?」その言葉に、若子はようやく修の言っていることが何なのか理解した。彼女は以前、修が送ってきた不可解なメッセージの意味を悟った。修は彼女が夜更かしして瑞震の資料を見ていたのは自分のためだと思い込んでいたのだ。「はは」若子は突然笑い出した。「何がおかしい?」修は苛立ちを隠せない様子で言った。彼の怒りに反して、若子は笑っ

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第435話

    修は静かにリングを選んでからさっさと帰るつもりだったが、こんなにあからさまな挑発を受けるとは思っていなかった。彼はリングをガラスのカウンターに叩きつけた。「なるほど、遠藤様ですか。偶然ですね」「ええ、偶然ですね」西也は不機嫌そうに言った。「藤沢様こそ、誰とリングを選んでいるんだ?」考えるまでもなく、あの雅子と関係があるに違いない。修は冷たい声で言った。「関係ないだろ」若子は不快な気持ちが全身に広がり、そっと西也の袖を引っ張った。「ちょっとトイレ行ってくる」西也は心配そうに言った。「俺も一緒に行く」二人は一緒に離れて行った。花はその場に立ち尽くして、手に持ったリングを見ながら困惑していた。一体、これはどういう状況なんだ?花は修の方に歩み寄り、言った。「ねぇ、あなた、うちの兄ちゃんと知り合い?」「お前の兄ちゃん?」修が尋ねた。「あいつが君の兄か?」花は頷いた。「うん、そうだよ。あなた、うちの兄ちゃんと何か関係あるの?」「君の兄が俺のことを教えなかったのか?」花は首を振った。「教えてくれなかった。初めて見るけど、なんだか顔が見覚えあるな。もしかして、ニュースに出たことある?」修は冷たく言った。「君と若子はどういう関係だ?」「若子とは友達だよ。なんで急に若子を言い出すの?」突然、花は何かに気づいたようで、目を見開き、驚きの表情を浮かべて修を見つめた。「まさか、あなたって若子のあのクズ前夫じゃないよね?」「クズ前夫」と聞いて、修の眉がぴくっと動いた。「若子が、俺のことをクズだって言ったのか?」彼女は背後で自分の悪口を言っていたのか?「言わなくても分かるよ」花は最初、修のイケメンな外見に目を輝かせていたが、若子の前夫だと知ると、すぐに態度を変えた。若子の前夫がクズなら、当然、彼女に良い顔をするわけがない。「若子、あんなに傷ついていたのに、あなたは平気でいるんだね。あなた、顔はイケメンでも、結局、クズ男なんでしょ」修の冷徹な目に一瞬鋭い光が走った。まるで冷たい風が吹き抜けたようだ。花はその目を見て震え上がり、思わず後退した。修の周りには、何か得体の知れない威圧感があって、花は無意識に怖さを感じていた。だが、若子のために勇気を振り絞り、花は言った。「でも、よかったね。若子はもうあ

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